【警鐘】その相続税対策、本当に大丈夫? 潜むリスクと落とし穴

相続税対策に目がくらむ人

良かれと思って行った相続税対策が、かえって資産を減らしたり、相続人間での深刻な争いを引き起こしたりする「危険な罠」となるケースが後を絶ちません。対策を実行する前に、そのリスクを正しく理解することが不可欠です。

相続税は誰しもが気になる問題です。しかし、「節税」という言葉だけに惹かれて安易な対策に手を出すと、思わぬ損失や家族関係の悪化を招く可能性があります。この記事では、特に注意すべき「危険な相続税対策」の具体例とそのリスクを深掘りします。後悔しない相続のために、ぜひご一読ください。

危険1:費用負担が大きい「不動産の生前贈与」

相続税対策として不動産を生前贈与するケースがありますが、これには大きな費用負担が伴います。

  • 高額な税金・費用: 不動産の贈与には、贈与税がかかる可能性があります。特に、評価額の高い不動産の場合、相続税よりも高い税率の贈与税が課されることも少なくありません。さらに、不動産の名義変更には不動産取得税登録免許税といった費用も発生し、これらも決して安くはありません。
  • 相続時精算課税制度の誤解: 「相続時精算課税制度を使えば2500万円まで非課税で贈与できるからお得」と考える方もいるかもしれません。この制度を使うと、最大2500万円の特別控除の範囲内であれば贈与時には贈与税がかかりません。しかし、この制度を使って贈与した財産は、贈与時の価額で相続財産に加算されて相続税が計算されます。つまり、贈与税はかからなくても、最終的に相続税の対象となるため、この制度自体が直接的な「相続税の節税」になるわけではないのです。(※ただし、将来値上がりしそうな不動産を贈与時の価額で固定できるメリットはあります。)

安易な不動産の生前贈与は、想定外の税金や費用負担で、かえって手元資金を圧迫する可能性があることを理解しておく必要があります。
また、複数人の子や孫に不動産を小分けの持分にして生前贈与をするというような税金対策をされる方もいらっしゃいますが、共有不動産はその利用、管理、費用負担、売却等の処分について、共有者の合意が必要となるため、もめる原因となります。また、共有を解消しようとすると、また、税金や費用が多額にかかりますので、注意が必要です。

危険2:借金で作るアパート経営の落とし穴

先祖代々の土地を守る手段、そして相続税対策として、借金をしてアパートを建設するケースはよく見られます。確かに、土地は貸家建付地として評価額が下がり、建物も建築費より低い評価額となり、さらに借入金は相続財産から差し引かれるため、相続税額を圧縮する効果は期待できます。

しかし、これはアパート経営自体が成功するという前提があってこそです。現実はそれほど甘くありません。

  • 儲からないビジネスモデル: アパート経営は、そもそも大きな利益を生むビジネスではありません。
    • 空室・家賃下落リスク: 人口減少や建物の老朽化により、空室が増えたり、家賃を下げざるを得なくなったりするリスクは常にあります。
    • 高額なコスト: 固定資産税、都市計画税、火災保険料に加え、経年劣化による高額な修繕費(外壁塗装、給排水設備、屋根など)は避けられません。
    • 金利上昇リスク: 低金利時代が続きましたが、将来的に金利が上昇すれば、借入金の返済負担は重くのしかかります。
    • 立地の重要性: 良い立地に、ニーズに合った建物を建てられなければ、安定した収益を得ることは困難です。
  • 見せかけの利益と長期的な負担:
    • 建築当初: 新築プレミアムで家賃は比較的高く設定でき、減価償却費(建物の価値減少分を経費として計上できる)の効果で税金の負担も少ないため、儲かっているように錯覚しがちです。
    • 10年~20年後: 大規模修繕が必要となり、多額の費用が発生します。
    • 減価償却期間終了後: 経費として計上できる減価償却費がなくなり、税金の負担が急増します。
  • 「一括借り上げ(サブリース)」の罠:
    • 「家賃保証」という言葉に安心しがちですが、不動産会社に支払う手数料が家賃収入から引かれるため、オーナーの手取りは当然少なくなります。※正確には、不動産会社と賃貸借契約を結ぶため、手数料ではなく、家賃となります。不動産会社は、実際住む方との賃貸借契約上の家賃を得ます。実際に住む方が支払う家賃-不動産会社が支払う家賃=不動産会社の収入であり、これを手数料と表現しています)
    • ただでさえ利益が出にくいアパート経営で、さらに手数料を引かれては、利益を出すのは至難の業です。また、家賃の見直し(減額)、一括借り上げ(サブリース)契約の解除もリスクとなります。
      売却の際には、サブリース契約が解除できず、収益が少ない物件として、売却金額が低くなる可能性もあります。

「相続税対策」という目的だけで安易に借金をしてアパートを建てると、相続税は減らせても、それ以上に大きな負債と経営リスクを抱え込み、かえって資産を失うことになりかねません。

危険3:節税が「争続」の火種に

相続税対策として行ったことが、かえって相続人間の争い、いわゆる「争続」を引き起こすケースも少なくありません。特に、借金をしてアパートを建設した場合、その傾向が顕著です。

  • 誰がアパート(と借金)を相続するか?: アパートは分割しにくい財産(不動産)であり、しかも多額の借金を伴います。誰がそのアパートと借金を引き継ぐかで、相続人間で意見が対立しやすくなります。
  • 預貯金の配分問題: アパート経営には、空室期間の家賃収入減や将来の大規模修繕に備えるための運転資金(預貯金)が不可欠です。そのため、アパートを相続する人は、他の相続人よりも多くの預貯金を相続する必要が出てくる場合があります。
  • 他の相続人の不満: アパートを相続しない相続人から見れば、「あの人はアパートという大きな財産をもらう上に、経営に必要な預貯金まで多くもらうのか」という不公平感が募り、対立が深まる可能性があります。

節税だけを優先し、相続人間の感情や将来の負担を考慮しない対策は、最も避けたい「争続」の火種となり、大切な家族関係を壊してしまう危険性があるのです。


【まとめ】 相続税対策は、目先の節税効果だけでなく、それに伴う費用負担、将来的なリスク(経営リスク、金利変動リスクなど)、そして何よりも家族関係への影響を総合的に考慮する必要があります。「専門家」と称する人のセールストークや、安易な節税情報に惑わされず、ご自身の状況とご家族の意向を踏まえ、信頼できる税理士などの専門家と十分に相談しながら、慎重に進めることが極めて重要です。危険な相続税対策に足を踏み入れないために、正しい知識と冷静な判断を心がけましょう。

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