ご依頼者様は、お母様を亡くされた相続人の一人でした。相続人はご依頼者様を含むご兄弟3名。お母様は遺言書を残されていませんでした。
主な相続財産は、賃貸マンションとその建設に伴うローン債務、そして預貯金でした。ご依頼者様はご病気のため車椅子での生活を送られており、将来の収入源として賃貸マンションの取得を強く希望されていました。マンション経営に伴うローン債務もご自身で引き継ぐご意向でした。また、将来必要となるマンションの大規模修繕に備え、預貯金の半分以上は確保したいとお考えでした。
しかし、他のご兄弟がどのようなお考えを持っているのか分からず、特に賃貸マンションの取得を巡って意見が対立するのではないかと、大変ご不安な様子でご相談に来られました。
実際、賃貸マンションは、その価値が数億円あるため、高額な債務の負担と大規模修繕費について、他のご兄弟に理解を得ることができなければ、依頼者の希望が通るのは難しいと思われました。
ただ、依頼者は希望の実現を最優先とはされず、円満な解決を重視されていましたので、それを実現するにはどのように話をするべきかを主眼におき、相続の計画を立てました。
当事務所のサポートと解決
まず、当事務所では相続財産の詳細な調査を行い、財産目録と状況レポートを作成し、現状を正確に把握しました。同時に、遺産分割協議中のローン返済が滞らないよう、ご依頼者様が一時的に支払いを代行する手続きを行いました。
次にご依頼者様と綿密な打ち合わせを行い、今後の方針を決定。相続人全員にお集まりいただき、相続に関する説明会を開催することになりました。当初、ご依頼者様はご自身の希望を先に伝えたいとお考えでしたが、他のご兄弟にとっては初めて聞く話ばかりであり、依頼者の希望に対する判断を迫るのは難しい状況です。そこで、まずは全員に現状をご理解いただき、それぞれの意見が出揃った段階でご依頼者様のご希望を伝えるという方針で進めることにしました。
説明会当日、ご兄弟とその配偶者の皆様は、緊張した面持ちでお集まりになりました。当事務所から、相続財産の詳細、賃貸マンションの収支状況や建物の状態、ローン残高、そして将来予想される大規模修繕の必要性と費用見込みなどを、客観的な資料に基づいて丁寧にご説明いたしました。その上で、遺産分割協議の必要性、合意後の相続手続き、相続税申告と納税の流れについても解説しました。
「まずは各自で、どのような分割を希望されるか考えてみてください」と宿題を提示し、2週間後に再度お集まりいただくことになりました。
2週間後の話し合いでは、ご依頼者様以外の相続人から、驚くべき提案がありました。「マンションはご依頼者に相続してもらい、ローン債務も一緒に引き継いでほしい。私たちは預貯金から一定額(500万円)を受け取れればそれで満足です」という内容で、もう一人のご兄弟もそれに同意されているとのことでした。
これは、当社からの説明によって、マンション経営には高額なローン返済が伴うこと、そして将来の大規模修繕には多額の費用がかかり、そのために預貯金を充当する必要があること、そして何より体の不自由な依頼者にとって、マンションの存在が心の支えであることを、他のご兄弟が深くご理解くださった結果でした。
後日、この内容に基づいた具体的な遺産分割協議書案を作成し、相続人全員にご確認いただきました。皆様にご了承いただけたため、正式な遺産分割協議書を作成し、ご署名・ご捺印をいただきました。
その後は、提携する司法書士がマンションの名義変更(相続登記)とローン債務の相続手続きを、当事務所が預貯金の解約と各相続人への分配を行いました。最後に、提携税理士が相続税の申告手続きを行い、各相続人が納税を完了し、全ての手続きが円満に終了しました。
結果
ご依頼者様の最大の希望であった賃貸マンションの取得が実現し、同時にローン債務も引き継ぐことができました。懸念されていた大規模修繕費用に充てるための預貯金も、ご希望通り確保することができました。
何よりも、当初ご依頼者様が危惧されていた相続人間の対立を回避し、全員が納得する形で円満な遺産分割を終えられたことが大きな成果です。説明会の終わりには、皆様の緊張も解け、笑顔が見られたのが大変印象的でした。
相続問題は、時に親族間の感情的な対立を生むことも少なくありません。当社では、法律的なサポートはもちろんのこと、ご依頼者様や関係者の皆様のお気持ちにも寄り添いながら、円満な解決を目指して尽力いたします。相続に関するお悩みは、ぜひお早めにご相談ください。