相続人が子供一人でも生前贈与を検討すべき? 高齢化・認知症に備える「生前対策」としての活用法

家を渡す

【結論】相続人が子供一人の場合、相続争いの心配は少ないため、基本的に相続対策としての生前贈与は不要です。しかし、親の高齢化や認知症に備える「生前対策」として、生前贈与が有効なケースがあります。

「相続対策」と聞くと、相続税の節税や、複数の相続人間での遺産分割トラブル回避をイメージされる方が多いかもしれません。そのため、「相続人は子供一人だけだから、うちは関係ない」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。

確かに、相続人がお子様お一人の場合、遺産分割で揉める可能性は低く、お子様に全ての財産を相続させたいと考えているのであれば、特別な相続対策は必要ないかもしれません。

しかし、近年「相続対策」だけでなく「生前対策」の重要性が高まっています。これは、ご自身が高齢になったり、認知症になったりした場合に備えて、元気なうちに対策を講じておくことです。

この記事では、相続人がお子様お一人の場合でも、「生前対策」として生前贈与を検討する価値がある具体的なケースについて解説します。ご自身の状況に当てはまるか、ぜひ読み進めてみてください。

相続人が子供一人の場合の基本

まず前提として、相続人がお子様お一人の場合、法律で定められた相続分(法定相続分)のすべてをお子様が相続することになります。そのため、

  • 相続争いが起こる可能性は極めて低い
  • お子様に全ての財産を相続させたい場合、特別な遺言書作成や生前贈与などの相続対策は基本的に不要

と言えます。(ただし、お子様以外の方に財産の一部または全部を渡したい(遺贈したい)場合は、遺言書の作成が必要です。)

それでも生前贈与を検討すべき「生前対策」のケース

相続対策としては不要でも、親御様の高齢化や認知症によって起こりうる様々な問題に備える「生前対策」として、生前贈与が有効な場合があります。具体的に見ていきましょう。

1. 実家が空き家になっている(または将来的に空き家になる可能性がある)場合

親御様が施設に入所されたり、亡くなられたりして実家が空き家になっている、または将来的にその可能性がある場合です。

  • 課題: 空き家は管理の手間(清掃、庭の手入れ、修繕など)や固定資産税などの維持費用がかかり続けます。将来的に売却したいと考えていても、いざ売却しようとした時に、親御様が高齢でご自身での手続きが難しくなっていたり、認知症を発症して判断能力が低下し、契約行為ができなくなっていたりする可能性があります。そうなると、成年後見制度を利用するなどの手続きが必要になり、時間も費用もかかります。最悪の場合、売却できないまま空き家として放置されてしまうリスクもあります。
  • 生前贈与による対策: 元気なうちに実家をお子様に生前贈与しておけば、お子様の判断で、適切なタイミングで管理や売却を行うことができます。これにより、空き家問題をスムーズに解決できる可能性が高まります。

2. 親御様が一人暮らしをしている持ち家がある場合

現在、親御様がお一人で持ち家にお住まいの場合も、将来的なリスクは空き家の場合と同様です。

  • 課題: 親御様が病気で長期入院されたり、介護施設に入所されたりした場合、ご自宅は空き家になります。その後の管理や、将来的な売却・賃貸などの活用について、親御様ご自身で判断・実行することが難しくなる可能性があります。
  • 生前贈与による対策: 事前にお子様に生前贈与しておくことで、いざという時に、お子様が親御様の意向も踏まえつつ、家の管理や処分をスムーズに進めることができます。

3. 親御様が賃貸物件(アパート・マンションなど)を所有している場合

親御様が賃貸物件を所有し、家賃収入を得ている場合も注意が必要です。

  • 課題1:賃貸経営の負担増: 賃貸経営は、入居者募集、家賃回収、クレーム対応、修繕手配など、様々な判断と対応が求められます。管理会社に委託している場合でも、最終的な判断や大規模修繕などの決断はオーナー自身が行う必要があります。高齢になると、これらの判断や対応が負担になったり、難しくなったりすることがあります。認知症になると、契約行為などができなくなり、経営そのものが困難になるリスクがあります。
  • 課題2:確定申告の手間: 家賃収入があれば、毎年確定申告が必要です。高齢になると、書類の準備や計算が負担になることがあります。もしお子様が親御様の生活のサポートをするようになった場合、確定申告まで手伝うとなると、お子様の負担はさらに大きくなります。
  • 課題3:医療費・介護費の自己負担増: 親御様に一定以上の所得(家賃収入など)があると、医療費の自己負担割合(1割、2割、3割)や、介護保険サービスの自己負担割合(1割、2割、3割)が高くなる可能性があります。
  • 生前贈与による対策: 賃貸物件をお子様に生前贈与すれば、賃貸経営の責任と権限がお子様に移ります。お子様が主体的に経営判断を行い、確定申告も行うことになります(お子様自身が確定申告に慣れていれば、それほど大きな負担にならない可能性もあります)。また、家賃収入が親御様からお子様に移ることで、親御様の所得が減り、結果的に医療費や介護費の自己負担割合が軽減される可能性もあります。

まとめ

相続人がお子様お一人の場合でも、相続対策としてではなく、親御様の高齢化や認知症に備える「生前対策」として、生前贈与を検討する価値があるケースが存在します。

特に、不動産(空き家、ご実家、賃貸物件)をお持ちの場合は、将来的な管理や処分の問題を回避するために、元気なうちにお子様への生前贈与を検討してみてはいかがでしょうか。

ただし、生前贈与には贈与税の問題や、不動産取得税、登録免許税などのコストもかかります。また、一度贈与すると基本的に取り消すことはできません。実行する際には、メリット・デメリットを十分に比較検討し、必要であれば当社を含め専門家に相談することをおすすめします。

この記事が、ご家族にとってより良い選択をするための一助となれば幸いです。

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