「うちは財産なんてほとんどないから大丈夫」「家族仲が良いから揉めるはずがない」…そう思っていませんか?しかし、遺産分割は、どんな家庭でも揉め事の火種になり得るデリケートな問題です。
何となくスタートしてしまうことが多い遺産分割協議ですが、事前の準備をすることによって、協議がスムーズに進みますし、相続人間の「何か隠しごとはないか」「得しようとしている人がいるのではないか」というような不信が払拭でき、感情的な対立を避けることができるようになり、もめない相続の実現の可能性が高まります。
そこで今回は、弁護士や司法書士といった専門家も実践している、揉めないための遺産分割協議を始める前の具体的な準備について解説します。
1.遺産目録を作成する
まず、相続財産を全てリストアップした「遺産目録」を作成します。これは、遺産分割協議の土台となる最も重要な書類です。
- 記載すべき主な内容
- 不動産: 土地、建物(登記簿謄本、固定資産評価証明書などを参照)
- 預貯金: 銀行名、支店名、口座番号、残高(残高証明書を取得)
- 有価証券: 株式、投資信託など(証券会社からの報告書などを参照)
- 動産: 自動車、貴金属、美術品など
- 負債: 借金、未払金、保証債務など(契約書や督促状などを確認)
ポイント: プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(負債)も正確に把握することが重要です。漏れがあると、後々トラブルの原因になります。
2.各遺産の評価を用意する
遺産目録に記載した各財産について、相続開始時点での評価額を明らかにします。
- 不動産: 固定資産税評価額、路線価、公示価格、不動産業者による査定額などを参考にします。
- 預貯金: 通帳を記帳し、相続開始日の残高を調べます。通帳がないものは、金融機関で調べることができます。各金融機関で相続開始日の残高の証明書をとることもできます。通帳自体も開示を求められることが多いため、開示できるよう準備しておきます。
- 有価証券: 証券会社から残高証明書を取り寄せ、相続開始日の終値や基準価額を調べます。
- 動産: 専門業者による鑑定評価や、中古市場の相場などを参考にします。
ポイント: 特に不動産や非上場株式など、評価が難しい財産については、税理士や不動産会社に相談することを検討しましょう。客観的な評価額を提示することで、公平な分割協議につながります。
3.各遺産の特徴を記載した書面
各遺産がどのような性質のものなのか、特徴をまとめた書面を用意します。
- 例:
- 不動産: 自宅として利用していた、賃貸に出している、共有名義になっている、抵当権がついている、再建築不可など。
- 株式: 会社の経営に関わる株式なのか、換金性が高いのか低いのかなど。
- 預貯金: 相続開始直前、開始後の入出金についての説明。
ポイント: これらの情報は、誰がどの財産を相続するのが適切か、あるいは売却して金銭で分けるのが良いかなどを判断する上で重要な材料となります。
4.相続人と法定相続分の記載した書面
誰が相続人となるのか、そして法律で定められた相続分(法定相続分)はどのくらいなのかを明確にした書面を作成します。
- 確認方法: 亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本などを収集し、相続関係を確定します。
- 法定相続分: 民法で定められた相続割合です。例えば、配偶者と子供2人が相続人の場合、配偶者が1/2、子供がそれぞれ1/4となります。
ポイント: 戸籍の収集は手間がかかる作業ですが、相続人を正確に確定するために不可欠です。司法書士などに依頼することも可能です。法定相続分はあくまで目安であり、協議によって異なる分け方をすることもできます。
5.各相続人からの遺産分割の希望聴取(アンケート)
遺産分割協議をスムーズに進めるために、事前に各相続人がどの財産をどのように相続したいと考えているのか、アンケート形式などで希望を聴取しておくと良いでしょう。
- 聴取する内容の例:
- 遺産の取得を希望するか
- 法定相続分での遺産分けを希望するか
- 取得を希望する財産(具体的な財産名)
- その財産を希望する理由
- 代償金(特定の財産を多く取得する代わりに他の相続人に支払うお金)の支払い意思の有無
- その他、遺産分割に関する要望(誰が、どれくらいの財産を取得すべきか等)
ポイント: 全員の希望がそのまま通るとは限りませんが、事前に意向を把握しておくことで、協議の論点を整理しやすくなります。また、他の相続人の考えを知ることで、譲り合いの精神も生まれやすくなります。
6.相続税の試算、相続税の申告時期
相続財産の総額が基礎控除額(3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要になる可能性があります。
- 相続税の試算: 税理士に依頼して、相続税がどのくらいかかるのか試算してもらいましょう。納税資金の準備や、節税対策(可能な場合)を検討する上で重要です。
- 相続税の申告時期: 相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限内に申告と納税を済ませる必要があります。
ポイント: 申告期限を過ぎると、延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があります。早めに税理士に相談し、スケジュールを確認しましょう。
遺産分割協議に際し、相続税の支払いを念頭に入れておかないと、遺産をもらえるようになったものの、納税資金が足りないということが後から発覚し、話が振り出しにもどることもあります。
また、今回の遺産分割が二次相続(相続財産を取得した方の相続。例えば、父が他界し、その後、父の遺産を取得した母が他界した場合の相続。)の相続税に影響を与える可能性があるため、税理士に相続税の試算だけでなく、二次相続時の相続税についても試算をお願いしておくと、遺産分けの参考になります。
7.相続手続きにかかる費用・相続税の申告にかかる費用の見積もり
相続手続きには、様々な費用が発生します。遺産分けの話の中で、相続にかかる費用を誰がどれくらい負担するかを決めておくことも大切です。事前にどの程度の費用がかかるのか見積もりを取っておくことで、遺産分けがスムーズに進みます。
- 主な費用:
- 戸籍謄本などの書類取得費用
- 不動産の名義変更(相続登記)にかかる登録免許税、司法書士への報酬
- 預貯金の名義変更や解約手続きにかかる費用
- 相続税申告を税理士に依頼する場合の報酬
- 遺産分割協議書の作成を専門家に依頼する場合の費用
ポイント: 費用は、相続財産の内容や相続人の数、手続きの複雑さによって大きく異なります。
ある程度、相続に関する資料が整ってから、各専門家へ見積を依頼します。
【まとめ】
遺産分割協議を始める前の準備は、時間と手間がかかる作業です。しかし、これらの準備を丁寧に行うことで、相続人全員が納得のいく円満な解決に繋がりやすくなります。
もし、ご自身たちだけでの準備や話し合いが難しいと感じた場合は、当社のような、家族会議のための準備を手伝ってくれる専門家に依頼しましょう。
法律や税務の知識はもちろん、過去の多くの事例から得た経験をもとに、会議の準備や会議の進行について、最適なサポートを受けけられます。
大切な家族との絆を守るためにも、ぜひこの情報を参考に、しっかりと準備を進めてください。