「自分はまだ大丈夫」「親はまだ元気だから」…そう思っていませんか? しかし、超高齢社会の日本において、高齢化や認知症の問題は、誰にとっても決して他人事ではありません。「まだ先のこと」と目を背けていると、いざという時に大変な事態になりかねません。
この記事を読むことにより、今から起こりうる問題と、それについてどのように備えるべきかが分かります。
高齢期に訪れる現実:入院、施設入所、そして要介護
年齢を重ねると、残念ながら病気や思わぬ怪我(特に骨折など)のリスクは高まります。入院が必要になったり、身体機能の低下から介護施設への入所を選択したりするケースは少なくありません。
よくあるのは、自宅で転倒により骨折、骨折により入院、そのまま家に帰ることができず、施設入所するパターンです。
また、身体的な問題だけでなく、認知機能の低下も大きな課題です。認知症が進行すれば、ご自身で契約ごとを行ったり、お金の管理をしたりすることが難しくなります。多くの場合、「要介護」の認定を受け、誰かのサポートが必要な状態になります。
在宅介護の難しさと「お金の管理」という壁
「住み慣れた家で最後まで」と願う方は多いでしょう。しかし、在宅介護は、常にそばにいてサポートできる同居家族がいない場合、現実的には非常に困難です。ヘルパーさんの利用など外部サービスを活用するにも限界があります。
そして、ご本人が入院したり施設に入所したり、あるいは認知症によって判断能力が低下した場合に、避けて通れないのが「お金の管理」の問題です。病院や介護施設に全財産を持ち込むのも難しいですし、日用品の購入するにもお金の出し入れすらままならず、難しくなります。
安易な依頼が「争族」の火種に
ここで多くの方が、「一番近くにいる子供に頼めばいい」と考えがちです。しかし、何の取り決めもなく、ただ口頭で子供の一人にお金の管理を任せてしまうことは、親子間の金銭トラブルや将来の相続トラブル、いわゆる「争族」の大きな原因となり得ます。
なぜなら、お金の管理を任された子供は、唯一親の財産の全てを知っていることになり、親からもお金のことで、多くの注文を受けたり、親が認知症になり記憶があいまいになると、財産について、「使い込んだのではないか」などと、あらぬ疑いを受けたりすることがあります。
また、親の預金の出し入れが自由にできる立場であることから、他の兄弟姉妹から「使い込んでいるのではないか」「お金をたくさんもらっているのではないか」と疑われることもあります。
また、本来は、「親の老後の世話」という大変な役割を担ってくれた一番の功労者であるはずなのに、残念ながらその労力は正当に評価されず、相続ではその労力に見合った財産を取得するケースは少ないのです。
今すぐ始めるべき対策:「財産管理契約」と「記録」
こうした事態を避けるために、元気なうちから対策を講じておくことが極めて重要です。
- 財産管理契約を結ぶ: 判断能力があるうちに、将来、自分の財産を誰に管理してもらうかを決め、その管理方法(報告義務、管理の範囲など)について具体的に取り決めておく**「財産管理契約」**(または任意後見契約とセットにすることも多い)を結びましょう。これにより、誰が正式な管理者なのかが明確になり、管理のルールも定まります。
- 徹底した記録を残す: 財産管理を任された人は、契約で定められた通りに、お金の使い道を証明できる領収書やレシートなどの証拠書類を必ず保管し、入出金を記録した帳簿(お小遣い帳のようなものでも可)を付けることが非常に大切です。これにより、「横領したのではないか」という疑いに対して、明確な反証を示すことができます。これは、管理を任された自分自身を守るためにも不可欠です。
功労者に報いる「遺言書」の作成
そしてもう一つ、重要なことがあります。親の介護や財産管理を一手に引き受けてくれた子供は、紛れもなく**「一番の功労者」**です。しかし、残念ながら法律上の相続分は、他の兄弟姉妹と基本的に同じです(介護者に寄与分が認められることもありますが、要件はかなり厳しいです)。
他の相続人がその労力を評価してくれれば良いのですが、現実にはそうならないことも多いのは前述の通りです。
そこで、親として、お世話になった子供に対して、その労に報いるだけの財産を遺す旨を記した「遺言書」を作成しておくことを強くお勧めします。「この子には、これだけの負担をかけたのだから、これだけの財産を多く遺したい」という親の明確な意思を示すことで、他の相続人への説得力が増し、無用な争いを防ぐことにつながります。
まとめ:未来の自分と家族のために、今、行動を
高齢化、そして認知症の問題は、すぐそこにある現実です。人生の中でもネガティブな部分の問題ですので、目を背けたくなる気持ちは、理解できます。しかし、目を背け続けると、問題を残すことも事実です。問題と向き合い、元気なうち、判断能力がしっかりしているうちに対策を始めることが、ご自身の老後を守り、そして大切な家族間の無用な争いを避けるための最善の方法です。
- 信頼できる人に財産管理を託す契約を結ぶ
- 管理を任されたら、徹底的に記録を残す
- お世話になった人に報いるための遺言書を作成する
これらの準備は、決して特別なことではありません。これからの時代を安心して生きるために、そして大切な家族を守るために、ぜひ今日から検討を始めてみてください。